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    第11話 不良中学生

     

    『咲音、気をつけろよ。無茶は絶対するな。危なくなったら他の奴らなんかどうでも良いからすぐ逃げろ。怪我はするなよ。』

    当日の朝、咲夜からメールが来た。今日は学校が休みだった。

    級長として、初めての仕事(というのだろうか?)をする日だ。

    現在、土曜日のPM05:40。
    咲音達級長集団は、高校の近くの港に居た。
    「喧嘩は6時からここで始まるらしい。誰かが一発でも殴ったら、作戦開始。それぞれの位置につけ」
    3つのグループに分かれ、約30m感覚で倉庫の裏に隠れた。

    昨日、グループ分けをした時――

    「んじゃ、俺咲音チャンと組むから」
    「えっ」
    天馬の一言に、咲音は驚く。
    「何だよー、じゃあ俺も同じグループに――」
    「ヤダ」
    志賀崎の言葉を天馬が制す。志賀崎はひどいよ、と泣きマネをした。

    「私も咲音と組む」
    「姫乃さん!」
    「…何の理由があって俺と組みたいの?」
    「お前は関係ない。私が咲音を守る」
    「ふぅん…ま、良いけど」

    他のチームは、伊吹、安御坂、京極の3人と、志賀崎、遠海の二人となった。


    「あ、誰か来た」

    倉庫の裏から港の様子を窺っていた天馬が、数人の中学生のグループを見つけて言った。

    作戦は、誰かが誰かを殴った瞬間、全員出動し、武器を奪う。向かってくる奴にはある程度のダメージを与え、とりあえず帰らせる、というもの。
    咲音は「ある程度のダメージ」というのがものすごく引っ掛かるのと同時に、こんな作戦で大丈夫なのかという不安も覚えていた。

    「咲音チャンは俺らが捕まえた奴の説教でもしててよ」
    「えぇ?」
    「私は咲音の側に居る」
    「あぁ」

    人はどんどん集まり、総勢30名ほどになった。

    「こ、こんなにたくさん…大丈夫なの?」
    「咲音チャン、俺らの心配なんかしないほうが良いよ」
    そう言って天馬は戦いの準備をした。

    「お前、やりすぎるなよ?」
    「わかってるよ」


    そして――

     

    バキッ

     


    一人の拳の音が空に響き、

    戦いが始まった。


    「じゃ、行ってくる」
    「気をつけて…」
    ――って、心配する義理も無いんだけど。

    天馬が出て行くと同時に向こうからも級長達が走って来たのが見えた。

    「………」

    咲音は黙ってその姿を見ていた。

    「てめーらみたいな下等中学の奴らが、俺らに勝てると思ってんのかぁ?」
    「けっ、お前らみてーに勉強ばっかやってる奴とは違うんだよ」
    正に中学生じみた言い合いが聞こえた。

    「…やっぱ、力(コレ)で勝負するしかねぇよなぁ!!」
    「望む所だ!」
    片方が、もう片方の頬へと拳を放った、その時…


    バシィ!!

    鮮やかな音と共に、一人の高校生が現れた。
    突然現れた男に拳を手のひらで受け止められた中学生は、愕然とする。
    「…な、何だ…?」
    その反応に、天馬はニヤリと笑った。

    「結構やんじゃねェか…

    俺も混ぜてよ」

    「お前…何のつもりだよ」
    天馬に形としては守られた中学生だったが、もちろん感謝するはずもなく、その背中を睨み付けてそう言った。
    「邪魔なんだよ!どけよ!!」
    そして、ドスッと背中を蹴った。
    「!?」
    しかし、天馬はビクともしない。
    男の前でバキッと言う音がした直後、それを理解する間もなくこめかみ辺りを強烈な痛みが襲った――…


    「行くなー、戒」
    少し離れた場所で、志賀崎は感嘆の声を上げた。
    「俺らもさっさと混ざろうぜ、誠」
    「混ざるんじゃねーだろ。止めに来たんだろ」

    遠海は一応ツッコむ。
    「いーだろ、どっちでも」
    「ま、良いけど…」

    早速殴り合いを始めた輪の中に入り込む。
    「よう、楽しそーなことやってんなぁ中学生」
    志賀崎は相変わらず呑気に話す。
    「何だ!?テメェ」
    「“お兄さん”も、入れてくんね?」
    子供扱いされた中学生達はもちろんキレる。
    「…ナメてんのか?」
    戦闘勃発。

    「…何でんな挑発するようなこと言うんだよ…」
    溜め息をつきながらも、遠海は志賀崎に加勢した。

    一方、伊吹・安御坂・京極組…
    「おぉっ!始まってんじゃん、俺達も行こうぜー!」
    真っ先に声を上げたのは、喧嘩大好き人間安御坂煌輝。
    「はしゃぐな、安御坂…」
    伊吹が睨む。彼は一応安御坂の監視役として一緒のグループになったのだ。
    「んだよ、戒も超遊んでんじゃん」
    「………」
    「ヤス、早く行くぞ」
    「おうっ」
    京極が言うと、安御坂は拳を握った。
    「ハァ……」
    伊吹も渋々ついていくのだった。

    「なぁ戒、あんまりやりすぎると紅城(ウチ)に来る奴居なくなんじゃねーの?」
    天馬と背中を突き合わせて志賀崎が聞いた。
    「大丈夫だよ。俺のこと知ってる奴なんか居ないし」

    「…オイ、あいつ…紅城高校の天馬じゃね?」
    「嘘だろッ!?あの激強(げきつよ)の!?」
    中学生は、天馬を見て怯んだ。

    「あれ」
    「何だよー、有名じゃんお前。良いなー俺も名乗ろうかな」
    「…やめろ」
    調子に乗ろうとする志賀崎を遠海が静かに制す。

    「俺、噂で聞いたことあるぜ…紅城高校には、クラスの中で一番強い奴がなる『級長』ってのがあるって」
    志賀崎と遠海が、お前も名乗りてーんだろ?とか、俺はそんなものに興味はないとか言っている間に、中学生達はひそひそと会話を始めた。
    「俺も聞いたことある!あの天馬って奴がそうなんだろ?」
    「あぁ、それで…俺、ものすごく当たりそうな予想があるんだけど」
    「何だよ?」
    「今ここに居る高校生全員…
    級長なんじゃねぇの?」

    「!!」
    「そんなん、俺らに勝ち目ねぇんじゃ…」
    次々と不安の声が漏れる。

    「これじゃ、ビビって逃げ出すかもな…」
    その様子を見て、京極が退屈そうに呟いた。
    「えー!つまんねーじゃん!!」
    安御坂が喚く。
    「これで良い。目的は達成され――」
    「おーい!今なら一発殴らせてやってもいいぞ、“中坊”ー!!」
    伊吹の言葉を無視し、安御坂が最高の挑発をした。
    「て、め…」
    伊吹も安御坂を殴ってやろうと思ったが、中学生の方が速かった。

    「へっ、クラスのトップなんか、たかが知れてらー…。ビビってんじゃねぇよ。行くぞ!!」
    同中同士で頷き合い、彼らは敵の対象を天馬達に変えた。
    「そう来なくちゃね…」
    天馬は満足したように笑った。


    「…………」
    咲音はただ呆然と、倉庫の裏から姫乃と一緒にその様子を見ていた。
    「…、こんなの……」
    喧嘩を止めるどころか、さらに激化しているように見えた。級長は完全に本来の目的を忘れているとしか言いようが無い。
    級長と中学生達の差は、歴然。何人でかかった所で、か弱い子犬をなぎ払うように殴り飛ばされる。
    そんな男達が6人も居れば、楽勝なのは誰の目にも明らかだ。

    ――これじゃ、ただの高校生と中学生の喧嘩だ…。
    咲音は恐怖の入り混じる目で彼らを見た。

    彼らは、さも戦いを楽しむように、笑っていた。

    次々と殴られ、蹴られ、倒される中学生達…
    咲音は、見ていることが出来なかった。


    「お前らなァ、自分のが弱いって分かったら、ムダに向かってくんなよ。ほんっと、バカじゃねーの」
    天馬は中学生を嘲笑していた。

    ――実際、こんな喧嘩を止める必要なんてどこにもない。“あいつ”は、ただ俺達に暴れていろと言った…。

    天馬は咲音の方を見やった。

    咲音チャン…君には、何が何でも来てもらうつもりだったよ。“あいつ”は、ただ君を試したかっただけなんだ。今頃どこで見てんだろうねェ…。

    攻撃を繰り出しながらも、天馬はククッと笑っていた。


    こんな状況、咲音チャンは黙って見ていられないだろうね……。


    「…私…通報する」
    咲音はポツリと呟いた。
    「は?」
    「だって…こんなのただの弱い者イジメじゃないですか、姫さん!」
    「…落ち着け。そんなことしたら、お前は校外追放だ」
    「えっ?」
    「今警察なんか来たら、確実にあいつらは逮捕されるだろ。そうなったら、恨みの対象はお前だ」

    「でも、逮捕されたら何も出来ないんじゃ…」
    「…お前は奴らに逮捕されてほしいのか?」
    「いやっ、そんなことありません!ごめんなさい…」
    「まぁ、私もどっちでも良い…だが、お前は確実に弾圧されるぞ。“あの人”に…」
    「あの人…?」
    「いや、何でもない…」
    そう言うと、姫乃は考える仕草をした。

    咲音の不安は募る。
    ――どうすれば良いの…?どうすれば、これを止められるの…
    暴走した6人を止める術など、どこにもなかった。

    「そういうことか…」
    「え?」
    ふいに、姫乃が閃いたように言った。
    「私には、何も聞かされていなかった。天馬(あいつ)は、私のことが嫌いだから…」
    「??」

    「…皮肉なものだな…ここで起こっていること全てが、“あの人”を楽しませるためだけのものとは…」
    「え…?」

    ――まずいな、私の口から漏れたことがバレたら…
    「いや、悪い。独り言だ…」


    「そうそう」

    ポツリと夜空に言葉が投げられた。

    「余計なことは言わなくて良い」

    いつの間にか5mほどの建物の上から今までの出来事を眺めていた、不気味な黒い影。

    「やはり姫乃はよく頭が回る…」

    闇の声は、漆黒に溶けて消えた。

    「よく聞け。この喧騒を止められるのは、お前しか居ない」
    姫乃は咲音に向き直って言った。
    「私、しか…?」
    「そうだ。考えろ。お前はこの状況を、どうしたい?」
    「………。

    …止めたい。級長達を止めて、中学生を助けたい…!」

    「よし、私も協力する。行くぞ!」
    「えっ…はい!」
    二人は倉庫から飛び出した。そんな姿を見て、謎の黒い影は不敵に笑った…。


    既に、半分近くの中学生が地面に倒れていた。痛みに悶えている者も居れば、気を失っている者まで居る。その状況は、級長の圧倒的強さを物語っていた。

    ――姫さんと私だけで、止められる…?…違う、止めなきゃ…!

    姫乃の強さはまだ知らなかったが、男6人を押さえ込むには足りないと思った。だが、やるしかない。

    「まーだ向かってくんの?感心するけど、頭悪すぎ」
    倒されても立ち上がる中学生達に、天馬はゆっくり歩み寄った。

    「かかって来いよ」

    !!…
    ――なんて、恐ろしい目…
    何でそんな目で、人間を見ることが出来るの…?

    「天馬君!もうやめて!!」

    突然斜め前方から飛んできた咲音の声に、一見驚きながら天馬はそちらを見た。

    そして、ニヤリと笑った。

    すぐに目線を戻すと、容赦なく腕を振り上げる。その瞬間、姫乃はさらに加速し、天馬の拳が放たれると同時に彼の前へ割り込んだ。

    「!!」

    姫乃は、片手で天馬の手首を掴み、動きを止めた。

    「姫さん…!」
    「もうそれくらいにしておけ、天馬…」
    ギリ…と姫乃の指に力がこもる。
    「南戸…俺の拳を止めたの、何回目だ…?」
    しかし、天馬の顔から笑みは消えなかった。
    「ふっ…そんなもの、数えられる訳が無いだろう?」
    姫乃が皮肉に笑うと、天馬の目が一瞬光った。

    掴まれた腕の反対の手で、回り込むように姫乃の右頭部へ拳を放つ。しかし、それはとっさに構えられた姫乃の右手に阻まれた。
    「姫乃さん!」
    「咲音…私はいいから、早くそいつらを!」
    「……わかった」
    咲音は中学生の方を振り仰ぐと、声を張り上げた。

    「皆逃げて!!早く!!」

    中学生達は顔を見合わせる。級長達も動きを止めた。
    「あなた達じゃ、絶対にこの人達には勝てない!!だから、お願い…!」
    咲音の言葉に、どこかの学校のリーダー格の学生が顔を歪めた。
    「お前、俺らをナメてんのか?」
    ――しまった、怒らせちゃった…?
    もう、何で分かってくれないの!!

    「お願い…」
    「!」
    咲音は祈るようにその学生の手を握った。

    「もうこれ以上、あなた達が傷付くのは、見たくないの…」

    「………」
    彼は頬を紅く染めながら、俯いた。
    「分かって、くれる…?」

    「……お前も、級長なのか?」
    「え、うん、一応…」
    「…そっか」
    そう言うと、彼は少し微笑んだ。
    「良い級長も居るんだな…俺も紅城に入って、良い級長になりたい」
    「…うん、待ってるよ」

    咲音が手を離すと、彼は仲間達に呼びかけ、その場から去っていった。他の中学生達も、逃げるように消えた。


     

     

         

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