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    第1話 荒れる新学期

     

    太陽はきっと…
    私達を照らしてくれない。

    私達は輝く必要なんかない。




    本当に正しいことを、
    知っているから――…


    ***


    とある街の、とある学校。季節は春。新学期である。

    薄く緑の香る午前、暖かな陽の差す教室。
    有栖川咲音ありすがわ さくねは、紅城こうじょう高校の二年生に進学した。
    新しいクラスは、2年C組。

    ――うわ、嫌だなこのクラス…

    教室の窓側の席から新しいクラスの面々を見渡す。穏やかな陽日とは裏腹に、教室の中の咲音はうな垂れた。
    不良が多いと言われている紅城高校の中でも、このクラスは一段とガラの悪そうな生徒が揃っているような気がする。
    やっぱりこんな高校に入学するんじゃなかった、と、咲音は一人溜め息をついた。

    咲音は性格は真面目な方で、軽くウェーブのかかった茶色いロングヘアーや有栖川という苗字から、一部の人には「アリス」と呼ばれることもある。今まで自分が苛められた経験こそないが、あまり気の強くない咲音は不安に包まれていた。

    「咲音…なんか今年ヤバそうだね…」

    そう声をかけて来たのは、一年の時一緒のクラスだった速水亜弥加はやみ あやか。今このクラスに、咲音が友達と言えるのは亜弥加しか居ない。

    「うん…なんか男子も女子も怖い人がいっぱい…目つけられたらどうしよう」
    「大丈夫だって!あんたが苛められる訳ないじゃんっ」
    亜弥加は笑うが、咲音の不安は拭い切れない。

    金髪、ピアス、派手なファッション…

    1つのクラスにここまで集結しているのだ。1年の時は居ても4,5人、今はクラスの3分の1を占めている。

    もしかして、2年になって皆はっちゃけたくなっちゃったとか?

    ハァー…

    溜め息が出るばかりだった。

    そして咲音はチラッと廊下側の後ろの席を見やった。そこで数人の女子達と会話をしている少女――徳森那津希とくもり なつき。彼女は紅城イチの不良娘として有名だった。化粧が濃く、オレンジに近い髪色、独特のショートカットや身に着けているたくさんのアクセサリーで、彼女はその存在感を増していた。咲音はその所業について詳しくは知らないが、とにかく恐ろしい。

    絶対目合わせないようにしよう…。

    咲音はそう心に決めた。


    ***


    始業式の次の日・いきなり席替えが起こった。
    「!?」
    窓側の後ろの方の自分の席を、完全に占領されている。自分が間違えたのかとも思ったが…
    ――ううん、合ってる!絶対!!
    咲音は恐る恐る不良グループのような男子達に近づいた。
    「あ、あの…そこ、私の…」
    男子達は非常に盛り上がっており、咲音の小さな声はかき消される。
    よしっ…
    咲音は勇気を振り絞った。
    「そこ、私の席なんですけど」
    今度はちゃんと聞こえたはずだ。だが…
    「あーゴメン、そこらへん座っててよ」
    咲音の席に座っている男子がほとんどこっちを見ずに言った。
    「ぅえ、あの…」
    咲音は適当にあしらわれてうろたえる。既に男子の意識の中に咲音の存在は無い。

    「咲音、しょーがないからここ座ろーよ」
    振り返ると、亜弥加が居た。
    「亜弥加ぁ…」

    結局、2人でその前の席に隣で座ることにした。
    見れば、後ろの席はほとんど派手な格好をした人達が占領している。他の人達も、咲音と同じような目に遭って適当に座ることになった。

    ――こんなんでいいの…?

    昨日の始業式で発表された、担任の米久よねひさ先生が教室に入ってきた。眼鏡をかけガリガリに痩せた姿は、なんとなく弱そうな印象を与える。
    「…席が変わっているような気がするのは気のせいですか?」
    教室を見渡し、先生が言った。
    「気のせーです!」
    1人の女子生徒が言い放つ。後ろの方から笑いが起こった。
    「とりあえず、元の席に戻りなさい」
    「えーヤダ、たるいし。ねぇ?」
    「だよねー、つか元の席に戻る意味がわかんないし」
    また笑い声。
    「何か不都合でもあるんですかー先生」
    今度は男子生徒が言った。
    「いいから、戻りなさい」

    「っせーな」
    ある男子が机を蹴った。前の方の席の生徒が、ビクッとして沈黙する。
    「さっさと話始めろよ。なぁ、コメクサ」
    「な…」
    「あっはは、コメクサとかマジウケんだけど」
    後ろからまた一段と笑いが起こった。

    ――笑…えないから。

    咲音とその他前の方にいる生徒達は、皆しんとしている。

    新学期早々、最悪だ……

    ***
     


    ピッ


    「もしもし〜?」

    ある日の昼休み、校舎に設置されているテラスで誰かと電話している男子。A組の生徒だ。
    この男子もツンツンに立てた金髪、制服着くずし、1年の頃は相当暴れたという問題児。

    「転校生?ふーん、お前んとこからかァ」
    彼は長らく話した後、
    「そんなコがねェ…楽しみだな」
    ニヤリと笑った。
    「うちのクラスじゃねーと思うよ、人数足りてるし――ん?…まぁな、とりあえず様子見とく」
    そして、ククッという笑い声。

    「もしかしたら俺の敵になるかもしんないしね」


    ***


    憂鬱な気持ちを抱えながら、咲音は電車を降りて歩いて学校に向かった。

    すると少し先に、公園の前にしゃがんでいる少女の姿が見えた。
    肩までのハネのある黒髪で、咲音と同じ制服を着ていることがわかった。

    ――見ない顔だな…いや、うちの学校の生徒を全員知ってる訳じゃないけど。…新入生かな?もしかして、転校生…?

    気になった咲音は、思い切って声をかけてみた。
    「あのっ、何してるの?」
    その時、少女に撫でられている猫が目に入った。
    「捨て猫…?」
    「…うん」
    少女は一瞬咲音を見、猫に視線を戻して言った。するとすぐに立ち上がる。

    「この高校の子?」
    少女はすぐ近くにある紅城高校を指差して言った。
    「う、うん。そうだけど…」
    「…そっか。じゃあ宜しく」
    彼女は少し微笑んだ後、学校へ小走りにかけていった。

    「あ………」
    彼女の後ろ姿を見送ってから、猫を見た。
    「早く飼い主見つかると良いね」
    そう言って、咲音も学校へ向かった。


    ***


    始業のチャイムが鳴り、米久先生が入ってきた。昨日から一部の生徒には「コメクサ」と呼ばれている。
    「えー、新学期が始まったばかりですが、転入生を紹介します」
    先生の言葉に、教室が少しざわついた。
    ――転入生か…この高校に、しかもこのクラスに…可哀想に。
    咲音の頭にはそんなことが浮かんだ。そしてピンと来た。あの子だ。
    先生の合図で教室の扉が開き、入って来たのはやはり咲音が今朝会ったあの少女だった。

    神名咲夜かんな さくよです…宜しく」

    咲夜という名の少女は、小さく頭を下げた。
    「なんか…あの子怖くない?」
    「うわ、こっち睨んでんだけど」
    教室の後ろから、ひそひそとそんな声が聞こえた。
    ――まずい。転入生は苛められる確率75%!!うちの学校では!!
    咲夜は小声で会話する生徒をギラッと睨みつける。
    「うっわ。怖っ」
    誰かがそう言った。
    咲音はあわあわとしながら咲夜を見つめた。
    さっき猫を撫でてた時は、あんな雰囲気全然無かったのに…。

    先生は顔をしかめただけで、何も言わなかった。
    「では、そこの空いている席に座りなさい」

    一番後ろの真ん中の席という中途半端な席が空いていた。不良達が男子と女子で右と左に寄ってそうなったのだ。その席のすぐ隣はあのタチの悪い徳森那津希達のグループだった。咲夜が席に座った瞬間、彼女達はあからさまに不機嫌な顔をした。

    ――だ、大丈夫かな…


    ***


    休憩時間…
    咲音はなんとなく心配で、自分の席から咲夜を見つめた。距離は2,3mくらい。
    早速那津希達が声をかけていた。
    「神名さん、顔怖いよ?」
    リーダー格の那津希がクスクス笑いながら言う。
    「あははは、もっとリラックス〜♪」
    そう言ったのは那津希の側にいつも付いている鈴原莉奈すずはら りな
    「もしかして怖がってんのかもよ?」
    一段と派手で背の高い坂蔵さかくらカナが言った。
    「やだーそれダサすぎだし」
    続く神崎茜かんざき あかねの一言に、笑いが起こった。
    他の2人も笑いに混ざっている。
    そんな声は全く聞こえていないかのように、咲夜は黙って本を読んでいた。
    咲夜を取り囲んでいるこの女子6人組が、C組の所謂女子不良グループだった。

    「ほら無視しないしない」
    那津希が咲夜の本をバサッと取り上げる。
    「神名さんさぁー…って、何」
    咲夜は真っ直ぐに、那津希を睨みつけた。
    すぐに席を立ち、教室を出て行ってしまった。

    「あっ…」
    ――咲夜ちゃん…

    「何あの態度」
    「転校生のくせに。せっかく話し掛けてやったのに」
    6人組は口々に悪態をつく。
    「ビビってんじゃないの?」
    「うわーウケんねそれ」
    「からかうの楽しーじゃん」
    また笑いが起こった。

    「――ねぇ亜弥加、まずいよ…」
    「何が?」
    「咲夜ちゃん!このままじゃ徳森さん達にずっと絡まれるって!」
    「あー…」
    「私、話し掛けてくる!」
    とは言ったものの、咲夜は休憩時間の度に那津希達に絡まれていて、咲音が話し掛ける隙も無かった。咲夜はその間一言も口を聞かなかった。

    そして、放課後…

    「神名さーん、どっか遊びに行こーよ」
    カナがまた、わざとらしく声をかける。
    咲夜は無視を続け、鞄を持って教室を出ようとした。

    「ちょっと」

    那津希が呼び止めた。
    「あまりにも愛想が悪すぎんじゃないの?そんなんじゃ友達出来ないよ」
    「お前らなんかと仲良くする気は無い」
    「な…」
    そう言って、咲夜は教室を出て行った。
    「ウザー…」
    「何あいつ、調子乗ってんじゃないの」

    「おー…」
    「何?咲音」
    「いや、咲夜ちゃん、カッコいいなぁって…」
    「ふーん…まぁ、あの様子ならイジメられることはないんじゃない?」
    「んー…そうかなぁ…」
    咲音はまだ心配だった。
    ――どうしてあんなに突き放すのかわからないけど…今朝のあの笑顔は優しかった。
    私は咲夜ちゃんの優しさを知ってる…だから、私が友達になってあげなくちゃ!!

    咲音はそう決意した。


    ***


    次の日、咲音が朝学校の廊下を歩いていると前を行く咲夜が目に入った。

    「あ、咲夜ちゃん!おはよっ」
    咲音はすかさず駆け寄り、ニッコリ笑って挨拶をした。
    「あぁ…おはよ」
    ――…そっけない。いきなりちゃん付けは馴れ馴れしかったかな?

    「あのさ、この前の猫…」
    「ん?」
    ――私のこと覚えてくれてたんだ…良かった。
    「居なくなってた…。ダンボールに敷いてあった布もなくなってたから、多分拾われたんだと思う」
    「…そっか!良かったぁ」
    「うん……」
    咲夜は少し微笑んだ。

    ――忘れてた。でも猫の心配してたとは…やっぱり咲夜ちゃんは良い子だ、うん。

    「あ、そだ、私有栖川咲音。宜しくね」
    「アリス…?」
    「うん、時々そう呼ばれるんだ。あはは」
    「そっか」
    咲夜もクスッと笑った。

    その時、後ろから2人の女子生徒がやってきて、1人がいきなり咲夜に肩をぶつけた。

    ――と、徳森、さん…

    ぶつかって来たのは那津希。と隣には莉奈。
    「神名さん、友達なんか要らないって言ってなかったっけ?」
    「そうは言ってないだろ」
    「あたしらはダメなのに、アリスちゃんなら良いんだ」
    那津希は皮肉っぽく言う。
    「お前には関係ない」
    「…っ…調子乗りすぎじゃない?ウザいんだけど」
    那津希がキレかかる。

    「那津希、ヤバい。コメクサ来たよ」
    莉奈が米久先生に気付いて那津希を止めた。
    「チッ邪魔な奴…」
    そう言い残して、2人は教室に入っていった。

    始業のチャイムが鳴る。

    ――嫌だ、入りたくない。あんな人達が居る教室に入りたくない。
    咲音が立ち尽くしていると、
    「っと…咲音?早く教室入ろーよ」
    「は…あ、うん」
    咲夜は何事もなかったようにそう言って、教室へ入っていった。

    ――咲夜ちゃん…凄い子が転入してきたもんだ…。

    咲音は唖然としながら教室に入るのだった…


    ***


    それから、那津希達は咲夜の行動や言葉に一々つっかかるようになった。
    その度に咲夜は無視するか言葉で突き放している。
    こんな日が続き、クラスに咲音以外で咲夜に話し掛ける人は居なくなってきた。

    昼休みも…

    「ねぇ、咲夜ちゃんも呼んでいい?」
    皆でお弁当を食べるために机をくっつけていた時に、咲音が言った。
    「えー、やめてよ。徳森さん達が来ちゃうじゃん」
    「関わんないほうが良いって…絶対」
    友達にそう言われてしまう。


    そしてある日、咲夜はSHRが終わるとすぐに教室を出てしまうので、咲音も急いで後を追った。
    校門を出てからも、なんとなく話しにくく、咲音は咲夜から2,3m離れて歩いていた。
    すると、ふいに咲夜が立ち止まって振り返った。
    「!」
    「何?」
    気付かれていたらしい。だがその声はあまり不快そうではなかった。
    「あ、あの…駅同じだよね?一緒に帰ってもいいかな…?」
    咲夜は少し黙っていたが、やがて顔を緩ませ微笑んだ。

    「いいよ」

    ――微笑って くれた…

    「あ、ありがとう」
    2人は並んで歩き始めた。

    「咲音…やっぱお前、他の奴らとはなんか違うな」
    「え?」
    「良い奴だよ」
    「そ、そうかな?」
    「うん」

    「あ、えーと…なんていうか、大丈夫?徳森さん達のこと…」
    「あぁ…本当にしつこい奴らだけどな、私はあれくらいなんともない」
    「…皆、徳森さんが怖くて…止められないの。ゴメン…」
    「大丈夫だよ。気持ちは分かってるから…」
    ――優しいなぁ、咲夜ちゃん…

    「ねぇ、咲夜ちゃんって…なんでうちの高校に来たの?」
    「…聞きたいか?」
    「あ いや、話したくなかったら、良いんだけど…」
    なんとく、聞いちゃいけないような、そんな気がした。
    咲夜はクスッと笑った。

    それからしばらく二人は他愛の無い会話をして、駅の改札口で別れた。

    ――咲夜ちゃんはあんなに優しい子なんだから、きっと皆と上手くやっていけるよ。
    だから徳森さん達に、止めさせなきゃ…!

     

         

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