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    第9話 初の級長会

     

    「し、しし、失礼します…」

    咲音は初めての級長会に出席した。
    級長会は「生徒会会議」という名目で、会議室で行われる。級長に生徒会役員は一人も居ないはずなのだが、そこは何かの力が働いているのだろう。咲音にもよく分からない。

    ――この中に、私達を襲って来た人達が…全員、居る…。

    咲音は出席するのをずっと躊躇っていたので、午後3時半開始にはっきり言って遅刻なのだ。

    咲音は震えながら扉を開いた。
    「おっ、来た来た」
    真っ先に気付いたのは、恐怖の赤毛。
    「初日から遅刻とは、良い度胸してんじゃねェか」
    続いて天馬が言う。咲音はビクゥと身を震わせた。
    約2ヶ月前に咲音の敵として立ちはだかったあの6人が、皆こちらを見ている。
    ――精神力、持つ気がしないんですけど…
    早くも咲音は倒れそうだ。

    あれ、私を入れても全部で7人しか居ない気が…クラスは8クラスあるのに。
    そう思った時…
    「何固まってんの?緊張してる?」
    赤毛がずいっと近付いて来た。
    「!いや、別に…」
    「怖がんなよ。もう怖くねーだろ?」
    十分怖いんですが!!
    赤毛が咲音をまじまじと眺める。

    「お前…よく見りゃ可愛ーんだな」
    は!?
    「よし、特別に俺と――」
    「からかうのもそんくらいにしとけ。まだ自己紹介も済んでねーだろ」
    天馬の言葉で、赤毛が少し離れた。こ、怖かった…。

    「二人共とりあえずこっちに座れ」
    長机が二つくっつけて並べられ、それを取り囲むように皆が座っていた。
    天馬に促され、赤毛は天馬の右隣、咲音はその隣に座った。咲音の右隣には長髪の男が座っていた。
    ――もうダメだ、ほんとに倒れそう…

    「にしても、まさか咲音チャンが級長になるとはねェ…」
    天馬が言った。なんか目が見れない…。
    「んじゃ、一応自己紹介しとくか。俺は2年A組級長、天馬戒だ。なんか知ってるみたいだけど。
    じゃ、次」
    そう言って、赤毛に合図した。
    「2年B組、志賀崎映時(シガサキ エイジ)。映時でいーよ」
    志賀崎はニッと笑った。なんか、前と全然印象違う気が…。
    「次は俺だな…
    D組の遠海誠(トオミ マコト)。宜しくな」
    人を物のように扱う咲音の嫌いな奴だ。
    「伊吹聡史(イブキ サトシ)…E組です」
    級長にしてはものすごく真面目そうな男だ。眼鏡も掛けている。あの時この人居たっけ…?

    次の席は何故か空いていた。
    「じゃ、俺な」
    そこで口を開いたのが、咲音の最も恐怖するあの茶髪男。限度を知らない不良中学生のような恐ろしい男だ。
    「G組級長安御坂煌輝(ヤスミサカ コウキ)。『ヤス』って呼ばれてっかな〜。まぁフレンドリーにいこうぜ」
    安御坂はニッコリ笑う。咲音は笑顔が一番怖いということを初めて知った。
    そして、最後の一人。
    「H組、京極湊(キョウゴク ミナト)。宜しく…」
    白髪だが大人しそうな男。咲音的にはクールな感じだ。

    こうして全員の自己紹介が終わり、咲音も一応、
    「あ、新しく級長…に、なりました…2年C組、有栖川咲音です。宜しくお願いします…」
    と挨拶した。
    男ばかりのこの部屋に、自分は場違いすぎる気がした。

    ――それにしても皆すごいかっこいいな…。
    「そりゃイケメンだよ、男にも女にも人気ねぇといけねーかんな」
    志賀崎の言葉に、咲音はハッとした。
    しまった、心の声が!
    咲音は自分の手で口を覆った。――ん?やっぱ何も喋ってないよね私…
    「あれ、マジでそう思ってた?」
    「へ…?」
    その意味を理解した時、咲音の顔がカァーッと紅くなった。
    「や、ちが…」
    「かーわいー」
    志賀崎が大笑いすると、他からもプッ…と笑う声が聞こえた。
    ――最悪…

    「間違っても惚れんなよ?ま、俺になら惚れてもいーけどな」
    「な…ナルシ…っ!」
    咲音は精一杯言い返した。
    「悪い?」
    「……っ…」
    ムカつく!!今まで何人もの女の子を傷付けてきたに違いない!
    た、確かにかっこいいけど…
    「いきなりナンパかよ、変態」
    安御坂が言った。
    「何か言ったかコラ」
    即喧嘩モードになる志賀崎。
    「へへっ、やるか?」
    「上等じゃねぇか」
    立ち上がり、掴みかかる二人。誰も止めようとはしない。

    級長は
    喧嘩大好き
    オーバーヒート 咲音

    そんな詩を頭に浮かべながら、咲音は二人の有り得ない喧嘩っ早さに唖然としていた。
    「よし、じゃあ何か話すことある奴いるか?」
    二人にはお構いなく天馬が話を始めた。既に椅子が何個か倒れている。
    「ちょ…っ、止めなくて良いんですか!?」
    「いつものことだし。ほっときゃそのうち止まるよ」
    天馬は平然と言った。
    こ、この状況で話し合いなんか出来る訳が…っ

    「ちょっとやめてください二人共!!何そんな細かいことで喧嘩してるんですか!?」
    「お」
    天馬は小さく声を上げる。
    「あぁ?」
    安御坂が咲音を睨み付けた。
    「ひっ」
    勢いで言ってしまったものの、やはり安御坂は怖い。
    「ごめんなー咲音ちゃん。――今日こそは決着つけてやるッ!」
    どうやら咲音の言葉でさらに逆上してしまったらしい。
    ――も…ヤダ……

    「あれじゃ止まりそうにねェな。伊吹、終わらせろ」
    「はい」
    伊吹は返事をすると、二人の元に向かい、それぞれの腕を掴んだ。
    「何すんだ伊吹っ!」
    「まだ勝負は終わってね――」
    「戒さんの指示が聞けないのか貴様ら」
    「…っ…」
    ものすごい形相で睨み付けると、二人は大人しくなった。

    ――す、凄い…。
    「あいつは見かけに寄らず恐ろしく強いからな。天馬の命令には絶対従うし」
    隣の遠海が言った。
    「そ、そうなんだ…」
    咲音がチラッと見ると、H組の京極はとても眠そうな顔をしていた。なんとマイペースな…
    「おい、さっさと始めてさっさと終わらせるぞ」
    京極の一言で、会議が始められた。

    ――会議って、何を話し合うんだろう…?
    「はい、で、何か話すことある奴いるか?」
    天馬が取り仕切っているらしく、先ほどと同じセリフを繰り返した。
    「「なーし」」
    「ハイ、終了。解散」

    ……
    は?
    何この適当感。
    ホールニューワールド?(意味は無い)

    「何でこんな適当なのよ!さっきからグダグダすぎじゃないですか?喧嘩はするし、F組の級長さん居ないし!」
    「ギャーギャーうるせーよ。また怖い思いしたい?」
    「………」
    咲音は安御坂をキッと睨み付けた。
    「まぁ落ち着いてよ咲音ちゃん」
    隣の志賀崎がさらに近付いて来る。
    「君、怖がりなくせに言う時は言うんだな…そういうとこ、好きだよ」
    耳元で囁いた。
    「ひっ…」
    咲音はぞわ〜っと身の毛を逆立たせた。
    「…離、れてっ!」
    志賀崎を押し退ける。
    「ちっ…普通なら一発で落ちるのに」
    なんて男…
    「あの、残念ですが私そういうの興味ありませんから。他の人にしてくれますか?」
    「良いじゃんちょっとくらい〜」
    「嫌です!何がちょっと?
    ていうか私、まだあなたのこと許した訳じゃないですから。あなたが咲夜ちゃんを…!」
    「咲夜……」
    ピク…と志賀崎が反応した。

    え、なんか変なこと言ったかな…?
    次第に周りの空気も張り詰めていく。
    …ヤバい、キレそう…。

    やがて志賀崎がこちらを見て…

    ニッコリ笑った。

    「まぁんなことはさっさと忘れてさァ、仲良くしようぜ」

    え?

    「あん時は悪かったよ、でも今はもう関係ねーから。お前らに恨みはねーよ」
    「そ、そうなの…?」
    「級長は、指令が出た時だけ動く。その時はそれを遂行することしか考えてないけど…それ以外の時は、全然普通だよ」
    天馬が言った。
    十分怖いけど…ただ怖いだけじゃないのかな。
    「級長は一心同体…だから、咲音チャンが何か助けてほしいことがあったら、いつでも言っていいんだ」
    「はぁ…」
    何ヶ月か前は敵だったのに、いきなり味方?なんか気持ち悪い…。

    とりあえず、級長でいる限りこの人達を敵に回すことは無いようだ。安心した。

    「あ、それで、F組の方は…?」
    気になっていたので咲音は聞いた。
    「あいつはよくサボるからな…」
    「えっ…サボっても良いの?」
    天馬の言葉に、咲音は少し期待を寄せた。
    「ダメ。あいつは力ずくで来させようとしても気が向いた時しか来ねェ奴だから」
    「ち、力ずく…」
    恐ろしい。

    「今日くらい来れば良いのになぁ。咲音ちゃんが級長になって、喜ぶはずだけど」
    志賀崎が言った。
    「……?」
    どういうことだろう?

    「まァそのうち会えるよ。てことで、解散な」

     

         

     

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