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    第8話 新級長

     

    「それでは、話し合いを始めます」
    それから数日後の放課後、解雇された那津希の代わりの新級長を決定する話し合いの場が持たれた。
    生徒だけの機密事項なので、もちろん先生は居ない。
    進行役は、特に誰でも良いのだが一応HR議長。

    「まず、立候補は…」
    当然だが、手を挙げる者は居ない。
    「…えー、では推薦」
    何となく言いづらいのか、誰も手を挙げない。

    「神名さんがやればいいんじゃないの?」
    那津希が手も挙げずに唐突に咲夜を推薦した。
    「お前、何考えてんだよ?」
    「何って何よ。ピッタリだと思うけど。うん」
    そしてパラパラと同意の声が漏れる。
    「待て。私はやらない。私にそんな役は向いてない」

    ――皆言ってるんだし、やっぱり咲夜ちゃんが適役だと思うんだけどな…。

    そんな呑気なことを考えていた咲音は、咲夜の素っ頓狂なセリフに腰を抜かした。

    「咲音がやれば良いだろ?」

    …は、は、は?

    「はぁぁ!!?」

    今までで一番激しい突っ込みかもしれない。
    「そんなに驚かなくても…。
    …お前が級長なら、色々と安心だろうしな」
    「ちょ、ちょっと待っ…、咲夜ちゃんが向いてないんなら、私なんか一億倍向いてないよ!!」
    「一億倍てあんた…」
    亜弥加が呆れて言った。
    「でも、良いかもしんないね」
    亜弥加は面白いことは徹底的に楽しむタイプなのだ。
    「あ、亜弥加ぁ…?」

    咲夜がどうしてもやりたくないと言うので、「しょうがないから有栖川にやってもらうか…」という空気が教室に充満した。
    「でもま、有栖川が級長になれば平和になりそうだしな」
    「悪かったな暴力的で」
    男子の言葉に那津希が突っ込んだ。
    「歴代No.1平和的な級長?歴史に残るな」
    笑いながらだが結構本気だ。
    ――な、何勝手なこと言ってんの…
    「宜しくお願いします、咲音ちゃん」
    裕子にまで言われちゃ救いようがない。

    「じゃ、頼むよアリスちゃん」
    「そ、園原さんがやれば…」
    「あたしは有り得ないから。あいつらと同じ役職っていうのが嫌。だから宜しくね」
    他のクラスの級長が苦手なのは私も同じだよ!ていうかどう考えても私のが嫌だよ!と言いたかったが言えなかった。
    咲音の頼まれると断れない性格が災いした。

    「では、新級長は有栖川咲音さんということで良いですか?」
    「いいでーす」
    「では解散」
    あっさりと決定してしまった。

    「あ…有り得ない……」
    「ま、ドンマイだねー」
    亜弥加に凄まじく軽く返された。
    「何にやけてんの亜弥加」
    「べーつにぃ?まぁ何とかなるよー、咲音だし」
    意味が分からない。

    「面白いことになったわねー」
    那津希が声を掛けて来た。もはや頼れるのはこの人しか居ないかもしれない。
    「と、徳森さん…
    私なんかで良いの?あなたみたいな人の跡を継ぐのが、こんな私で良いの!?」
    「うん、楽しみだから」
    は!?
    「あんた、何か他とは違うモノ持ってると思うよ。あんたなら、何か変えられるはずだから…」

    「期待しないで、お願いだから…」
    「あんたなら大丈夫よ。奴らは相っ当曲がり者で生意気で厄介で面倒くさくてうざったいけど、何とかなるって」
    何とかなる気が微塵もしないんですが…。

    四面楚歌。
    もう受け入れるしかない。

    「亜弥加…私、やるよ」
    「やっとやる気んなった?」
    「他の級長達がもし何か悪いことしてたらやめさせたいし、もうあんなことが二度と起きないようにしたいし!」
    こうなったら、とことんやるしか無い。

    ――咲音、あんたって妙に怖がりのくせに勇気あんのよね…。
    亜弥加は呆れながらも感心していた。

    「頑張れよ、新級長」
    そこへ咲夜がやって来た。
    「咲夜ちゃん…」
    「お前なら大丈夫だ。何かあったら、すぐ私に言えよ」
    「うん、ありがとう…!」


    こうして、2年C組の新級長が誕生したのだった…。



    慌ただしく日々が過ぎ、一学期が終わった。

    そんなに正式な組織という訳でもないので、咲音の級長就任は二学期からということになった。

    夏休みの間、咲音は何度か咲夜を遊びに誘ったが、全て断られてしまった。考えてみれば、咲夜と学校以外で一度も会ったことがない。学校帰りに少しだけどこかに寄るくらいだ。

    咲夜の家のことも、家族のことも、過去のことも…まだ何も知らない。自分からは話したくないようだった。

    裕子も咲夜を誘ったが断られたらしく、代わりに咲音が何度も遊びに連れて行かれた。

    「咲夜ちゃん、今日も忙しいんですかねぇ…」
    皆で海に遊びに行った時、裕子がぼやいた。
    「うーん、どうだろ…」
    ――咲夜ちゃん、こういうの苦手だろうしな…。
    「神名さんは海ではしゃいだりしないでしょ〜」
    ある女子が言った。
    「ぶー」
    裕子は子供のように膨れた。

    結局、夏休み中は一度も咲夜に会えなかった。


    ――そして、今…

    二学期が始まった。


    ――ついに、始まってしまった。
    地獄の二学期が。

    咲音はそんな風にしか考えられなかった。二学期は行事が盛り沢山、大いに楽しめる時期…ではあるが、咲音は“級長”という役職に就かなければならないのだ。

    「はぁ…嫌だ嫌だ」
    咲音は溜め息をついた。

    「咲夜ちゃぁ〜ん!!!」
    「うわっ」
    その時、学校に来た咲夜にいきなり裕子に抱きついた。

    「咲夜ちゃ…」
    夏休み中一度も会えなかったので、咲音も一番早く咲夜に話し掛けたかったのだが…

    ――て、あれっ
    私焼き餅焼いてる?


    騒々しく幕を開けた二学期。

    これから先にどんな出来事が待ち受けているのか

    まだ咲音は知らない…。



     

         

     

     
     
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