My desire
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    第6話 最終手段

     

    「咲音、来るよ…」
    その時、亜弥加が耳打ちした。
    「え?」
    ふと目をやると、那津希達が近づいて来ていた。
    そして、咲音達の前に立った。

    「どういうつもり?梓。あんたまで、あたしに逆らうって訳」
    梓はまた俯いてしまう。
    やはりまだ那津希が怖いらしい。
    その表情は、とても悔しそうだった。

    「実姫と梓も引き込んで…何の真似よ、アリスちゃん、神名さん?」
    そう言って2人を睨む。
    「…ま、待って那津希!この2人を責めることないでしょ!?」
    梓が、今2人にもらった勇気を振り絞って、叫んだ。

    「へぇ…こいつらの味方するんだ」
    那津希の怒りが膨れ上がっているのがわかった。梓を睨みつけている。
    そして……


    「あんま調子乗んなよ…!!!」
    那津希が梓に手をあげた。


    「那津希!やめなって!!」


    実姫が叫ぶも、意味はなかった。




    パンッ!!!――



    ――あ………




    その場に居た全員が、唖然とした。


    那津希に頬を殴られたのは――…



    咲夜だった。





    「…!!神名さん!!!!」

    梓は咲夜が自分の身代わりになってくれたことが信じられなかった。
    そして、殴った本人も驚きを隠せないようだ。

    「何の…つもり……?」
    「咲夜ちゃん……」
    咲夜は那津希と梓の間に立ち、殴られた頬を赤くしながら、真っ直ぐに那津希を見据えた。

    「お前に、こいつを殴る資格は無い…」
    「はぁ?何言ってんの」
    「級長だかなんだか知らねーけどな、自分に逆らったら制裁を与えるのか…ふざけんな」
    「……」
    「権力で、力で皆に言う事聞かせて…何が楽しいんだよ?何も悪いことしてない奴らをイジメて、何か意味あんのかよ?私はいい…でも、咲音や園原、並木にお前が手を出す権利は無いはずだ」
    咲夜が厳しく那津希を睨み付ける表情とは対照的に、那津希は薄笑いを浮かべていた。

    「そうねぇ…あんた、今年転校してきたからそういう風にしか考えらんないのかもね…」
    「?」
    「級長のことを何にも知らないってことよ。どんな理屈を並べても、あんたはあたしに逆らえない」
    那津希はさらに口角を上げた。

    「級長全員を敵に回すことがどういうことか…分からせてやるわ」

    「………」
    咲夜が黙っていると、那津希は仲間を引き連れて去っていった。

    「…咲夜ちゃん、大丈夫?」
    咲音は咲夜の頬の痛々しい傷を見て言った。
    「……あぁ、平気だ…」

    「庇ってくれてありがと、神名さん…」
    梓がおずおずと言った。
    「でも、まずいよ…いくら神名さんでも、級長全員が敵じゃ、ヤバいって…」
    段々と怯えるような声に変わる。
    「どうすれば良いの、あたし達…」
    実姫も不安を隠せないでいた。
    「ごめん、私が――」
    「咲夜ちゃんは悪くないよ」
    言葉を遮ったのは咲音だった。咲夜を見て、ニッコリと笑う。
    「あ…うん、あたしもそう思う」
    梓が続く。
    「このまま何も出来ないの嫌だったし、神名さんが那津希にあぁ言ってくれて…嬉しかった」
    「あたしも、あの時有栖川さんを助けたこと、後悔してないよ。神名さんみたいな人が居てくれて、本当に良かった」
    実姫が言った。

    「………」
    咲夜は驚いたように梓と実姫を交互に見た。
    「…あり、がと……」
    「よーし、こうなったらとことんやってやろうじゃんよ」
    「え?」
    突然亜弥加が勢いづいて言った。何故か笑顔だ。
    「級長制度壊滅!!」
    亜弥加はビシッと親指を立てた。
    「あぁ」
    「うん!」
    咲夜と咲音も同意する。

    実姫と梓が顔を見合わせた。
    「あたし達も、協力するよ」
    「うん」



    「あの…」
    そこへ、一人の女子生徒が近付いて来た。
    「神名さん…私、高月裕子(タカツキ ユウコ)って言います。良かったら、裕子にも協力させてくださいっ」
    裕子は深々と頭を下げた。
    「!」
    「徳森さん達が怖くて近付けなかったけど…裕子、ずっと神名さんに憧れてたんです。だから…」
    「…あぁ、ありがとな」
    咲夜は微笑んだ。すると裕子の顔がパァッと明るくなった。
    「ありがとうございます!嬉しいです!あの、咲夜ちゃんって呼んでも良いですか!?」
    「え、あ、あぁ…」
    いきなりのハイテンションにたじろぐ咲夜。
    「裕子に出来ることがあれば何でもします」

    「あの…有栖川さん」
    「!…」
    続いて、あの時咲音に酷いセリフを言った女子達がやって来た。
    「この前は最低なこと言って、本当にごめん…あたし、自分のことしか考えてなかった」
    「直接害は無くても、やっぱ那津希は許せないと思う」
    「もう那津希に従ったりしないから…」
    「あたし達にも、協力させてくれるかな?」

    咲音は一瞬信じられない思いだった。女子達の言葉を理解した後、嬉しさが込み上げて来た。

    「…ありがとう、皆…っ」
    咲音は泣きそうな気持ちで感謝した。

    ――信じていれば、きっと道は切り開ける。
    ありがとう……

    そんな様子を教室の外から見ていた一人の男子生徒は、不気味な笑みを浮かべるとその場を去った。
    ――面白くてたまらない…
    そんな表情をしながら、天馬戒はこれからの展開に期待していた。


    ***


    咲夜は保健室に行った後、クラスの雰囲気も考えて早退することにした。
    午後の授業はものすごく険悪なムードだったが、その日のうちに那津希が行動を起こすことは無かった。


    ***


    それから休日が明け、さらに二日後。何となく日常になってしまい、咲音達はテラスで昼食を食べていた。
    今日もこれと言って何も起こらなかった。実姫と梓は二人でガードを固め、那津希達とは全く話さないようにしていた。
    今日はいつもの三人に+もう一人。

    「テラスでお昼御飯も良いものですね…」

    お茶を啜りながら和みまくる女子生徒、高月裕子。彼女は本当に咲夜のことが好きなのか、よく一緒に居た。
    クラスの生徒達は何かに吹っ切れた様子で、咲音や咲夜達に話しかけて来てくれる。
    たとえ級長全員が敵になろうと、皆一緒なら心配ないと思ったのだろう。

    「お前、こんなに私達と一緒に居て危機感は無いのか?」
    咲夜が聞いた。
    「そんなのありませんよ〜。徳森さんはあぁ言ってましたけど、本当は多分もう――」

    「あれ、仲間出来たんじゃなかった?何でまたテラスで食べてんの?」

    「!!」
    いきなり目の前に現れたこの男…天馬戒。
    「…お前には関係ないだろ」
    「相変わらず冷たいねェ…――ん、なんか違う奴も居るみたいだね…へェ」
    そう言って天馬は意味あり気に裕子の方を見た。
    「……」
    裕子は天馬を睨み付けた。

    「…?」
    この二人、何か関係あるのかな?
    咲音は疑問に思ったが、天馬がすぐに話題を振った。
    「級長の掟にはこんなのがあるんだよ。知ってるか?」
    唐突に話し出す。
    「?」
    「クラスの3分の2以上が級長に従わなくなった場合、その級長はその権利を奪回され、クラスで決められた新たな級長に譲られる」
    「!」
    「そう!だからこのまま行けば徳森さんが級長を降りるのも時間の問題なんですよ!クラスの支持率も確実に下がってるはずですし」
    3人は知らなかったが、裕子は知っていたらしい。
    「だろうね。…でも、那津希チャンはしぶといコだからねェ…。何が何でも、他の級長達を使うよ」
    「……」

    「それで、定期的に行われる級長会があったのが、昨日」

    「!」

    4人は顔を見合わせた。嫌な予感がする。
    「やっぱり、那津希チャンは君達のことを話してたよ。それは凄い勢いで」
    天馬は笑顔を崩さない。
    「級長は一心同体なんだよ。掟で決まってるからね。だから…

    残念ながら、俺らの敵」

    満面の笑みを浮かべる天馬の背後に、いつの間にか5人の男子生徒が立っていた。



    「……!」

    咲音は寒気がした。予想はつく。この5人、全員級長だ。
    見るからにガラの悪そうな5人。髪が赤いのや白いのも居る。

    「那津希チャンからのご指令は、君達を『学校に来られなくすること』」
    「…なん、だと……」
    咲夜でさえも引き下がる。いくら咲夜でもこの人数相手では危険だ。
    「そっちの二人は逃げとけ。お前らの名前はねェからな」
    二人とは、亜弥加と裕子のこと。
    「ど、どうしよ…」
    急展開に戸惑う。
    「…行け」
    咲夜が言ったが、二人はなかなか動かない。恐怖で動けないというのもあった。
    「いいから、行け。早く…」
    「う、うん…」
    その場に居てもどうしようもないと、亜弥加が足を踏み出した。裕子もそれに続く。

    二人が校舎の入り口まで来た時、

    「スト〜ップ」

    「!?」
    呑気な声でそう言ったのは、赤毛のヤンキー。
    「逃げろっつっても、そこまで。助け呼ばれちゃ困るかんね」
    「じゃ、俺興味ねぇから見張っとく」
    天馬がそう言うと、少し離れた。

    ――神名咲夜…
    コイツなら、この人数でも逃げることは出来るだろう。だが、あっちの有栖川咲音。あのお嬢様はどう考えても無理だ。

    天馬はククッと笑った。

    ――見せてもらおう…
    一人でずる賢く逃げるか、有栖川咲音を庇って二人ともやられるか。
    どうする?神名咲夜……


    ***


    「ねぇねぇ園原さん、咲夜ちゃん達知らない?」
    昼休みが始まってからしばらくした時、一緒に弁当を食べようとしていた女子の一人が実姫に聞いた。
    「あ、神名さん達ならテラスで食べてるみたい」
    「テラスか!ね、あたし達も行こうよ!」
    「良いねぇ!行く!」
    女子達は支度を始めた。

    「行くな!!」

    それを聞いていた那津希が突然叫んだ。女子達はビクッと固まる。
    「どうしたのよ、那津希」
    実姫が聞いた。
    「………」
    那津希は答えようとしない。実姫は不審に思った。
    「ちょっと那津希!あんたなんか変なこと企んでんじゃないの!?」
    「…うるさい!だから何だよ!!」
    「ほんっとに…最低ね」
    実姫は溜め息をつくように言った。
    「…止めに行く気?」
    那津希は冷静さを取り戻すと、ふっと笑って言った。
    「当たり前でしょ」
    「何考えてんのよ。男の級長よ?それも6人。あんたの相手になる訳ないじゃない」
    「………」
    実姫は那津希を強く睨み付けた。

    「皆!!神名さん達が…級長にやられちゃう!!もう学校に来れなくなるかもしれない!!」
    実姫は教室に声を張り上げた。
    「一人じゃ級長達にはかなわないけど…皆一緒ならなんとかなるよ!!だから…」
    「そんなことしても無駄――」
    那津希は誰も協力する訳がないと踏んでいた。

    「マジかよ!ヤバくね?それ」
    「行った方が良いんじゃ…」
    「めっちゃ卑怯じゃん!ムカつく!」
    「助けに行かなきゃ…」

    女子からも男子からも声が上がった。
    「………」
    那津希は耳を疑った。
    「どこ!?」
    「テラス!!」
    「どうすんの!?」
    「わっかんねーよ!!けど…」
    皆バットやラケットなど各々武器を持ってテラスに向かおうとした。
    「ちょっと様子見て、作戦練らねぇと…」

    準備をし、教室から出て行く。
    「…めて、よ…」
    一人席に座ったままの那津希は、小さな声で呟いた。
    「やめて…やめてよ…!!」
    今度は大きな声だったが、耳を傾ける者は一人も居なかった。
    「……っ…!」
    数秒のうちに、教室には那津希、周りに莉奈、カナ、茜しか居なくなった。
    そして、もう一人梓がまだ残っていた。

    「…皆、あの昼休みのこと見てたから。皆那津希が悪いと思って、神名さん達の味方になったの」
    梓は淡々と話す。
    「もう、那津希の言う事聞く人なんか、誰も居ないよ」
    「!…」
    「…梓、あんた調子に乗ってると…」
    莉奈が睨んだが、梓はもう怯まなかった。
    「間違ってるのはあんた達だよ!後悔するのも謝るのも、全部そうだよ!!」
    梓はそう言い捨てると、走り去った。
    「…………」
    那津希は何も言うことが出来なかった。



    怖い。まず顔が怖い。この人達本当に高校生?
    てゆうか目が怖い。人間じゃない。怖すぎる。

    咲音は恐怖に立ちすくみ、さっきから頭の中でそればっかり繰り返していた。

    「とりあえず、そっちの神名咲夜ちゃん?まずはお手並み拝見かな」
    赤毛が言った。何するつもり…?
    「おい、片方押さえとけよ」
    「命令してんじゃねぇ」
    赤毛が言うと、愚痴りながらも長髪の男が咲音に近付いて来た。
    ――ななな何、何、何っ!?
    同時に、赤毛が素早く咲夜と間合いを詰め、いきなりストレートを放った。
    「っ!」
    咲夜はとっさに避ける。

    「咲夜ちゃ…、…っ!」

    咲音は長髪の男に羽交い締めにされた。口を塞がれる。
    「んん、がっ…」
    必死にもがくが、びくともしない。
    「うるせぇ、大人しくしてろ」
    ――嫌、嫌だ!怖い!!
    足 震えてるし…も、動けない…!
    咲音は恐怖のあまり全く動けなくなってしまった。

    「いきなり何すんだ、てめぇ…」
    「ふーん…結構やるなぁ」
    マイペースに感想を述べる。
    「じゃ、コレは?」
    言うと同時に右手の拳が咲夜の顔面に迫る。
    「くっ」
    咲夜はかろうじて両腕をクロスして防いだ。だが、かなりのダメージだ。
    再び前方を見ると、連続で左手が飛んできた。
    「!!」
    腕の防御だけでは防ぎ切れなかった。
    咲夜は地面に尻餅をついた。
    「くっ……」
    「んんーっ!!」
    咲音は言葉にならない叫びを上げる。

    「上半身まで倒れなかったのは凄いな」
    赤毛の目は笑っていた。
    周りの男達はギャラリーのように二人を見ている。
    「2分持ったら俺に交代なー!」
    という声もする。

    赤毛はよろめきながら立ち上がった咲夜に近付いていった。
    「ん…まだ顔の傷残ってんだな」
    「!」
    「那津希の殴りじゃすぐ消えるだろ。俺ので残しとくか?"名誉の傷"」
    赤毛はニヤリと笑った。

    「…っ」
    ――やめて…やめて、お願いだから…

    咲音はギュッと目を瞑って、再び開いた。でも、目の前の景色は何も変わらない。

    「避けるだけか?向かって来いよ」
    次々と放たれる拳や蹴りを、咲夜は反射神経だけを研ぎ澄まして避け続ける。
    だが、少なからず体にも受けていた。

    「ハァ、ハァ……」
    少しずつ咲夜の動きも鈍くなってきた。
    「おいー!そろそろ代われよ!」
    先ほどからやたら戦いたそうにしていた茶短髪の男がまた叫んだ。
    「まだ。そっちの奴んとこ行けよ」
    赤毛はそう応えた。
    「ちっ…ま、いいか」
    茶髪の男が咲音の方に近付いて来た。
    「おーい戒、コイツどうすんだよ?」
    「知らねー、勝手にしろよ」
    「ふーん…」
    茶髪男は考える仕草をした。
    「じゃ、とりあえず貸して」
    「……」
    長髪の男は黙ったまま咲音の背中を思いっ切り押した。
    「いたっ…」
    咲音は茶髪にぶつけられる。
    ――人を物のように…
    酷すぎる…!

    茶髪は咲音の顔をまじまじと見てきた。
    「………」
    「…やっぱ不登校にさせんのはもったいねぇよなぁ」
    「!?」

    「徳森に目つけられたくねぇんなら…俺の言う事全部聞くとか」
    ――な、何この人…
    「誰が…」
    咲音がそう言って茶髪を睨んだ瞬間、体ごとテラスの端に持っていかれた。
    そのまま縁に押さえつけられ、首根を掴まれる。
    「……っ…」
    体を直角に曲げられた咲音の目に映ったのは、直下に広がる硬いアスファルト。
    咲音は絶句した。
    足が浮いてくる。
    心臓が波打ち、恐怖以外の感情が全て吹き飛んだ。
    「怖い?」
    「…ぁ……っ」
    ここは4階の高さのテラス。それに、今は普通に下を見る時よりも何倍もの怖さがある。
    「俺を敵に回さねぇ方が良いと思うけどな…」
    この男、明らかに咲音の怖がり様を楽しんでいる。
    「…本当にてめーは悪魔だな。大魔王…?」
    長髪男が呟いた。


    バキッ

    「!」
    偶然だが、咲夜の右拳が赤毛の頬に命中した。
    「いって〜…」
    一瞬よろけるが、倒れはしない。むしろほとんどダメージを受けていないように見える。
    ――隙をついて逃げるしか無い…でも、咲音が――

    あの茶髪、本当に咲音をテラスから落としそうな勢いだ。危険すぎる。

    「フッ、俺様の顔に傷つけるとはな…
    ちょっとキレんぜ」
    赤毛は不気味に笑う。
    「女子に本気で殴んのはあまり望まねぇけど…級長絶対使命だから仕方ねぇ。

    俺もまだ級長辞めたくねーんでな」

    言い終わった瞬間、赤毛は凄い速さで咲夜の背後に回り込んだ。
    「!!」
    ゴッと背中を殴られる。
    「うっ!」
    咲夜は地面にうつ伏せの状態で倒れ込んだ。
    そのまま足で踏みつけられる。
    「どうしてやろうか…」
    赤毛は残酷な笑みを零す。先ほどまでよりさらに悪が増している。
    ――クソ…

    その時だった。



    バシャッ――

    「!?」
    「!」
    「ぶわっ、冷てー!」
    赤毛が叫ぶと、咲夜の上から飛び退いた。
    ――何だ…?
    上体を起こし確認すると、彼の赤い髪が濡れていた。
    「何しやがんだ!クソッ」
    言いながら水が飛んできた方向を見やった。

    「うわっ!何だよ!?」
    「!…」
    咲音を押さえ付けていた茶髪、続いて長髪男も水の攻撃を受けた。
    解放された咲音は崩れ落ちるように座り込んだ。
    ――何…?

    テラスより4mほど高くなった場所…給水塔が設置されている棟の上に、ホースを構えた生徒が数人立っていた。テラスにいた全員が注目する。

    「!みんな…」
    それはクラスメートだった。

    そこに、実姫がひょっこり現れた。
    「あんた達、何やってんのよ!?女の子を男6人で襲うなんて…卑怯よ!!」
    「んだてめーは」
    髪の水を払いながら赤毛が言う。
    「水!!」
    実姫の合図と同時に容赦なく彼らを水が襲う。
    その隙に、亜弥加達が居た入り口とは別の入り口から潜んでいた女子生徒が咲音と咲夜の元へ駆け寄り、離れた場所へ避難させた。

    男達は天馬以外全員水浸しになった。
    「くっそ…」
    「今よ!!」
    すると、女子が出て来た入り口に控えていた男子生徒達が大量に飛び出す。バットやラケットの他に、竹刀、ボール、何故か黒板消し、辞書など、あらゆる道具を武器化して、怯んだ級長達に一気に襲いかかった。
    20人近い生徒達の猛攻撃に、級長は反撃することが出来なかった。

    「おい!引くぞ!」

    一番被害の少なかった天馬が叫ぶと、亜弥加と裕子を押し退けて校舎に消えていった。
    それに続いて他の級長達も走り出した。
    合計5人の男が入り口前に結集した時…
    「せーのっ」
    「!?」
    頭上からの声とともにこれでもかという大量の水が降ってきた。
    「ぐわっ」
    男達は逃げるようにテラスを後にした…。


    「………」
    咲音は嵐のようなその光景を、呆けながら眺めていた。先ほどまでの恐怖も助長してか、級長が去った後も動けずにいた。
    「神名さん!有栖川さん!」
    実姫を先頭に、クラスメート達がこちらに向かって来た。
    「大丈夫だった!?」
    「変なことされてない!?」
    「怖かったよね、もう大丈夫…」
    皆が次々と声を掛けてくれる。徐々に安心感が湧いてきた。
    「うん…ありがとう」
    「お前ら、すげーな…」
    「ふふっ、あたしが作戦考えたのよ。那津希が何か企んでたみたいだったから」
    実姫が自慢気に言った。
    「久々に暴れたなーっ」
    「かなりすっきりした!!」
    「つーか級長に勝ったよな!」
    男子達は歓喜の声を上げた。
    「かなり一方的だったけどな…」
    咲夜が苦笑して言った。
    「何言ってんだよ、助けてやった恩人だろ?」
    「あぁ、感謝してるよ」
    男子達は照れくさそうに笑った。
    「俺達超かっこ良くねぇ?」
    「何、ナルシスト?」
    皆は互いに笑い合った。

    ――皆が、ひとつになった…。

    咲音はそう感じた。


    総勢36名による救出劇は、見事に成功した。



         

     

     
     

     

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