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    第3話 級長登場

     

    次の日、朝の2年C組は騒然としていた。

    「ねぇ、見た?裏サイト」
    「見た見た、ついにって感じだよねー…」
    「何!?誰が書いたの?」
    「徳森さんに決まってんでしょ。あー怖い怖い」
    「あー…そりゃ逆らえないな。可哀想だけど…」

    女子達の声に混ざって、男子も会話を始める。

    「そーいや徳森ってうちの級長になったんだっけな」
    「そうそう。ついに裏のトップが動き出したな」
    中にはワクワクした表情を見せる者もいた。

    「咲音ー…大丈夫?」
    亜弥加は教室の隅で沈みまくっている咲音に声をかけた。咲夜はまだ来ていない。
    咲音は裏サイトに干渉することが無く、先ほど学校に来て初めて知った。

    ――裁きだ。自分と咲夜が、ターゲットにされた。

    「私…なんか悪いことしたかなぁ…」
    今にも泣きそうな声で言う。
    「咲音は悪くないって。那津希が勝手にキレただけなんだから」
    「うん……」

    サイトを見ていなかった生徒にも凄い速さで伝わり、咲音に挨拶をする生徒さえ居ない。
    だが、亜弥加だけは側に来て慰めてくれた。

    「亜弥加…私の近くにいたら、亜弥加まで…」
    「バカ、何言ってんの。あたしはそんなこと気にしないよ」
    亜弥加の優しさが身に沁みる。

    はぁ………
    盛大な溜め息が零れた。

    ――級長は、1クラスに1人ずつおり、学年で8人いる。
    所謂クラスの「裏のトップ」というべき存在だ。
    「級長」とは言っているが、実は2年にしかおらず、前年度の級長が話し合って次の級長を決めるのだ。
    基準は、クラスで絶対的な力を持つ存在――誰も逆らうことが出来ない人物。

    級長には様々な権利が認められている。
    代表的なのは、「掲示板で制裁者を名乗る権利」で、掲示板に書き込まれた内容にはクラスメート全員が従わなくてはならない。
    もちろん無関心な生徒も居るが、逆らうことはしない。級長全員を敵に回すことになるからだ。

    そして、新しく2年C組の級長になった徳森那津希は、「制裁者」として咲音と咲夜の名を書き込んだのだ。

    宣戦布告――復讐の始まりだった。


    チャイムが鳴り、咲夜が来た。同時に教室の空気がさわっと動く。
    皆がチラチラと咲夜に視線を送る中を全く気にする様子もなく歩いた。
    「神名さん」
    咲夜が席に着くと、那津希がすかさず話しかける。何かふっかける気だ。咲夜はシカトしていた。
    「粋がってられんのも今のうちよ。あんたなんかすぐに、皆の嫌われ者になるんだから」
    「………」
    何のリアクションも見せずに、鞄を教科書をしまう咲夜。

    咲音の心は、ズキッと痛んだ。
    私のせいだ…私が余計なことしたから。助けになんて全然なってない。むしろ状況を悪化させただけ…

    「……っ」
    自分の無力さに、失望した。
    那津希は鼻で笑うと、自分の席に戻った。


    ***


    そして、昼休み――

    皆の目を避け、咲音は咲夜を誘って亜弥加も一緒にテラスで弁当を食べることにした。人は少し居たが、隅の方に座った。
    「はぁ……」
    一日中、溜め息ばかりの咲音だった。
    「………」
    咲夜は今日、ほとんど口を開いていない。

    「咲音、咲夜ちゃんも、元気出しなよ…って、出ないよね…」
    「話し掛けてくれるの、もう亜弥加だけみたい」
    「そんな消極的になってないでさ、まだ始まったばっかだよ?何とかなるよ、絶対!」
    「亜弥加…さっきはあぁ言ってたけど、やっぱり関わらないほうがいいよ。徳森さんは級長なんだし…」

    「…咲音」
    「?」
    「あたしは…その級長っていう制度、元々反対だった。ずっと、なくなれば良いのにって、思ってた。面白がってる人もたくさん居るけど…でもあたしは、絶対ダメだと思う」
    「うん」
    「だから、もうこーなったらさ、級長潰しちゃうくらいの勢いで反抗しようよ!」
    「えぇ?」
    級長を潰す…普通なら有り得ない考えだ。

    「…あぁ、それには私も賛成だ」
    「咲夜ちゃん!」
    ずっと黙っていた咲夜が同意した。
    「よし、じゃ決まりね!」
    亜弥加がグーという仕草をする。
    「ちょちょちょ待ってよ!」
    咲音は慌てて止めに入った。普通に言っているがこれはとんでもないことだ。
    「君達級長サン達の怖さを知らないね!?あの人達を敵に回したら――」


    「回したら?」


    「!!!」


    心臓がドクンと跳ねた。

     

     

    いつの間にか、一人の男子生徒が目の前に立っていた。金髪の短い髪を立たせ、抜群のルックスに強い瞳を持った男。
    その人物は……

    「2年A組級長天馬 戒てんま かい……」

    テラスに、一陣の風か吹き捲いた。

    「あれ、俺の名前知ってたんだ。嬉しいねェ」
    咲音でも知っていた。彼は2年の間では有名なのだ。――つまり、危険人物。

    「那津希チャンがなんか言ってたからさ、どんな奴か気になって探してたんだよ。こんな隅っこで昼食かァ、寂しいねェ…」
    「何の用だよ」
    咲夜は天馬を睨みつけて言った。
    「君、転入生だよね?会えるの楽しみにしてたよ」
    「?」
    天馬は不気味に笑った。

    「それにしても、転校早々那津希チャン達と争うなんて、運が無いね。…そういや、受刑者は二人だけって聞いたんだけど?」
    亜弥加は少し冷や汗をかいた。
    「ま、どーでもいいか。――で、さっきの『級長を潰す』っていうのは?」
    「………」
    「そのままだよ。その訳分かんねー制度ごとお前らをぶっ潰すっつってんだ」

    黙ってしまった咲音と亜弥加に代わり、咲夜ははっきりそう言った。
    「へぇ…面白いね、君」
    天馬は口の端を吊り上げて笑う。
    「咲夜ちゃん…」

    「…じゃあ、級長を敵に回すってのがどういうことか、教えてやんねーとな…」
    「!待って!!」
    咲音が止めるも、天馬は咲夜に近づいていく。咲夜は弁当を地面に置くと、立ち上がって身構えた。


    天馬の右ストレートが、咲夜の顔面に放たれた…。



    女子の顔を殴るなんて、なんて最低な男だ。私だったら絶対に治療費と慰謝料を請求する!
    と、目をギュッと瞑った咲音は一瞬の間に考えていた。



    「…何のマネだ」


    「え…?」
    見ると、天馬の拳は咲夜の顔面スレスレでピタリと止まっていた。
    「なーんてね」
    天馬は右手を下ろすとヘラと笑う。
    「俺が直接手を下す必要もねェよな。どーせ那津希チャンが暴走しただけだろ?それに、君達面白いから、何すんのか見てみたいし」
    はぁ…?という顔で咲夜は天馬を眺める。
    「ま、他の級長も俺には手ェ出せねーしな。楽しませてもらうよ」
    「…お前、ふざけてんのか?」
    「ククッ、さーね。…つか、俺のストレートに微動だにしなかったの君が初めてだよ。一応誉めとく」
    そう言い残すと、天馬は校舎へと入っていった。
    テラスに居た人達もいつの間にか居なくなっていた。おそらく天馬が絡み始めた時に逃げたのだろう。

    「…咲夜ちゃん、大丈夫…?」
    咲音は心配そうに咲夜の顔を覗き込んだ。
    「あぁ、あいつが本気で殴ろうとしてなかったの、分かってたから…」
    「え、分かってたの!?」

    ――天馬 戒…
    あいつは一体何者なんだ…?
     



         

     

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